新規事業を成功に導く魔法の杖はあるか?(2)

2007.01.24

江崎博士の五箇条

2007年、日経新聞連載「私の履歴書」の晴れある初回はノーベル賞学者である江崎玲於奈博士からはじまった。江崎の黄金律とも呼ばれる”ノーベル賞をとるためにしてはいけない五カ条”というのが述べられているのだが、これはそのまま「新規事業を成功させるためにしてはいけない五箇条」と言い換えてもいいと思える内容なので少し内容を見てみたい。

新規事業を成功させるためにしてはならない五箇条

別の言い方をすれば、この五カ条には本来新規事業を成功させるためには「してはいけない」はずであるのに、既存事業が新規事業に「させてしまいがちなこと」が見事に戒めてある。

簡単に抜粋させていただくと、下記の五箇条なのであるが、これらを新規事業用に少し読み替えてみたい。

  1. しがらみにとらわれてはいけません。
  2. 教えはいくら受けてもかまいませんが、大先生にのめりこんではいけません。
  3. 無用ながらくた情報に惑わされてはいけません。
  4. 自分の主張をつらぬくためには戦うことを避けてはいけません。
  5. あくなき好奇心と初々しい感性を失ってはいけません。

五箇条の具体的内容

1.「しがらみにとらわれてはいけません。」

しがらみの最大の原因が既存事業である。「こちらの仕事の邪魔になるな」「こっちとの間にシナジーを生み出せ。」「いままで前例がないのでそれは駄目だ」「こちら側の承認も取ってくれ。」とかいろいろなオーダーが新しい取り組みに対して出てくる。それでは無視してしまえばいいのかというと、そこが難しいところで怒らせてしまえば、人を出してもらえない、お客を紹介してもらえないなどのデメリットが出てくる。

2.「教えはいくら受けてもかまいませんが、大先生にのめりこんではいけません。」

少し分かりにくいが、既存事業でやり方を知りすぎていると、新規事業に対して必要以上に恐怖心を抱いてしまうことがある。既存事業でスタープレーヤーである人にも多く見られるのだが、知らない技術や知らない顧客となると簡単に手を上げてしまい、仮説すらもとうとせず、外部の先生とは呼ばれなくとも自分より知っていると思い込んだ人々(コンサルタント、大学教授、銀行員などなど)のいうことを鵜呑みにしてしまうのである。

例えは悪いが、予想屋の予想に自分の虎の子をつぎ込むようなもので、責任は全て自らがとることになるので、決してお勧めできないやり方である。

3.「無用ながらくた情報に惑わされてはいけません。」

少し意味が違うのだが、既存事業には非常に有効なやり方であるが、新規事業にとっては逆に害悪になってしまう方法論があるという風に考えればいい。既存事業においては、きちんとしたプレゼンテーション資料をまとめるのが最適解であったのが、新規事業ではとにかく顧客訪問に時間を費やすべきかも知れない。

4.「自分の主張をつらぬくためには戦うことを避けてはいけません。」

新規事業については周囲との軋轢や衝突は必ず発生する。逆にそういう場面がない場合には、新しいことができていないかもしれないと自らを省みたほうがいい。そういう局面で、「上司のいうことだから。」「お客が駄目って言ってるから。」とすぐに自分の考えをひっこめているとなかなか成功はおぼつかない。間違っていようがいまいが、必ず一度は自分の信念を通してみるべきである。

もちろん、過ちは改むるにしかず、ではあるので、通して間違っていればすぐに修正しないといけない。これができないと、逆に悪くなる場合もあるので要注意。

5.「あくなき好奇心と初々しい感性を失ってはいけません。」

いうまでもないことだが、やはり興味と好奇心を持って、新しいものをどんどん取り込んでいかないと、新規事業はうまくいかない。困難ややったこともないことに次々とぶつかったときに面白いと感じられるかどうかで取り組み方が大きく違ってしまう。

既存事業はしてはいけない方向へいってしまう

これなど簡単なことのように思えるのだが、組織の中で新規事業を立ち上げていく場合、なかなかどうしてこれが実現できないのである。

そもそも、チームのリーダーが兼任で主業務が忙しくてなかなか自らの好奇心を発揮できなかったり、そもそもビジネスアイデアの発案者でなく、既存事業でなにがしかの役職と評価を得ている人物をリーダーに据えてしまうため、そもそもあまり当該事業に興味がなかったりするのである。これでは、好奇心など発揮しようがないし、そもそも初々しい感性など期待しようがない。

これら五箇条を読み替えながら考えてみると、やはり既存事業には「してはいけない」方向に新しい事業を自然と引き寄せてしまう力が内在していることが分かる。

博士の五箇条が、「してはいけない」をベースにしている点も興味深いところだ。「こうすれば取れる」ではなく、これをしたらノーベル賞が取れないという言い方なのである。

つまり、これだけやれば必ず取れるというものではなく、いかにとるための成功確率をあげていくために、躓きを少なくするかというところに重点が置かれているのである。もちろん、単なる減点主義とは違う。その上に、新たな創造と運が必要であるということであろう。

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