社内ベンチャーの現在とこれから

社内ベンチャー熱が冷めてきている

最近、社内ベンチャー制度について取材を受けました。

「なぜ今、社内ベンチャーなのかな?」と思ったので尋ねてみると、今後の日本の産業が生き延びるために重要だと思うが、最近下火になっているのではないか?という問題意識があるとのことでした。

そういえば社内ベンチャーという言葉を最近は耳にしなくなりました。

かつて、社内ベンチャーブームがありました。バブル崩壊後の90年代中ごろから2000年のITバブルの崩壊の頃までです。もちろん今も、社内ベンチャー制度が存在している企業が多いのですが、実際に次々とベンチャーが生み出されて成功しているかといえば期待したほどではなく、社内の熱も冷めてきているようです。

理由としては極めて単純明快なのですが、実際のところ思ったような成果が出なかったということです。

では社内ベンチャー制度は、企業の経営にとってあまり意味をなさないのでしょうか?

答えはNoだと思っているのですが、ではなぜ”うまくいっていない”という認識を持たれるのか?について考えてみたいと思います。

期待値が高い事が要因

先ほど社内ベンチャーは期待はずれだったというのが一般的認識だと書きましたが、実際にはNTTドコモのiモードやソニーのプレイステーションなど大きな成功例も存在していますし、目立たないですが着実に成長している社内ベンチャーもかなりあります。にも関わらず、期待値があまりに高かったために、成功例が見過ごされているという側面があります。

「ベンチャーなのだから成功確率はそもそも低いはず。ポートフォリオの考えでいこう。」となればいいのですが、逆に、「華々しく社内ベンチャー制度を広報してしまった。なんとか早く成功例をださないと。」と高いハードルだけが残され、制度を圧迫し歪めてしまう事例が結構な数あるのです。

”Cool head, warm heart”が重要

つまり、そもそも成功確率が低いものに過大な期待を持ってしまったが故に、あせりを生んでさらに成功確率を下げ、大きく短期的な成功でなければ、うまくいかなかったように感じられてしまうのです。

ここでは別に低い目標で満足しようという話をしているわけではありません。

「でも結果として成功確率が低いんだからダメな制度じゃないか。」と思われる方もいらっしゃると思うのですが、本来社内ベンチャー制度においては、成功率が低くても最終的には成功できる方法論を考えるべきだと思うのです。

言い方を変えると、事業個々の成功確率は決して高くないかもしれませんが、制度が輩出する事業全体でみるとROIがあがるような制度にすべきだということです。

そのためには、”Cool head, warm heart”が要求されます。

つまり、制度を作る側、つまりマネジメントを中心とした会社側には冷静な頭脳が、実行する側、つまり社内ベンチャーを立ち上げる社員には熱き意思が求められるのです。

ところが、逆のケースがほとんどです。経営陣が熱くなって制度を作り、社員がそれを覚めた目で見ているという例はたくさんあります。

そうならないように、制度立案者にはポートフォリオ発想と実行者たる社内起業家の熱き心をマネジメントすることが求められます。

ポートフォリオ発想とマネジメント

例えば、ポートフォリオ発想の施策としては、下記などが上げられます。

  • 事業候補を絞り込みすぎない。
  • いくらよさそうに思えてもいきなり大きく投資しない。=マイルストーン投資
  • 同じ業界を狙ったものばかりにしない。
  • ハイリスク型とローリスク型をバランスさせる。
  • 短期リターン型と長期リターン型をバランスさせる。

また社内起業家の熱き心をマネジメントするために、下記も必要となります。

  • 彼らが取るリスクとリターンのバランスをきちんと考える。
  • 自発性を重視する。自発性を発現しやすくする。
  • 責任と権限のバランスを考える。
  • 自由と制限のバランスを考える。
  • Exitルールを作る。

継続する事が前提

そして、もうひとつ大切なのが、”継続する”ということです。つまり、景気や企業業績に大きく左右されず、絶えずやり続けることが重要です。

これは、人材採用や研究開発と同じです。既に書いたことの繰り返しになってしまうのですが、そもそも続けることを前提とした制度設計にしておくことが重要なのです。

昨今の世界的大不況の影響で、いまいまの優先順位は低いのかもしれませんが、イノベーション/新規事業/社内ベンチャー、言い方は違えど新しい付加価値を生み出していく活動は世界中の企業にとって最大の関心事であり続けることは間違いないと思います。

“苦しいときこそ、他に先んじた攻めを!”ということで、社内ベンチャー制度を再検討し、再活用を試みるにいい時期なのかもしれません。

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